【迷ったらこの比較表】冷蔵・冷凍・定温、どれを建てる?──用途別の“断熱×空調設計”完全ガイド

「温度管理が必要なのは分かるけれど、定温・冷蔵・冷凍のどれを建てるべきか判断が難しい」──食品、医薬品、EC(コスメ・健康食品)を扱う現場から、よく届くお悩みです。
結論から言えば、**保管する品目・回転速度・作業内容(開梱/検品/流通加工)**によって最適解は変わります。さらに、断熱と空調は“一体設計”にしないと、電気代や結露・霜、床の凍結トラブルで後悔しがちです。
本記事では、温度帯の選び方から断熱材・気密化・空調方式
コストと省エネまで、建設計画の判断軸を実務視点で解説します。

1. まず温度帯を決める:用途別の基本温度レンジ

区分代表温度帯主な対象ポイント
定温15〜25℃化粧品、医薬部外品、コンタクトレンズ、チョコ・菓子、精密機器湿度45〜60%管理で品質安定。空調+断熱のバランスが肝
冷蔵0〜10℃(一般は2〜8℃)生鮮、乳製品、惣菜、要冷蔵医薬品開閉損失と結露対策。ドック周りの気密が勝負
冷凍−18〜−25℃(保管−20℃目安)冷凍食品、畜産品、魚介類霜・床凍上、庫内作業安全が最大テーマ

迷ったら**「いちばん厳しい温度帯」を基準**にする。厳しい帯域に合わせれば、緩い帯域はゾーニングで吸収しやすい。

2. 断熱の基本:厚みだけでなく“気密・防露・動線”が要

2-1. 外皮仕様(屋根・壁・床)
  • 定温:高性能サンドイッチパネル(t=50〜75mm目安)+熱橋対策。外壁は遮熱を意識。

  • 冷蔵:断熱パネル(t=75〜100mm)。開口部は気密性能の高い扉で結露抑制。

  • 冷凍:断熱パネル(t=100〜150mm)に**防湿層(透湿対策)**を確実に。床は凍上対策(スラブ下防霜ヒーターまたは換気層)を必須化。

2-2. 開口部と気密化
  • 高速シートシャッター+エアカーテンで外気侵入を遮断。

  • **前室(エアロック)**を設け、荷捌き→定温/冷蔵/冷凍ゾーンへの段階移行で温度差ショックを吸収。

  • ドックシェルター・ドックレベラーを庫内側に取り込む設計で熱損失を最小化。

2-3. 結露・霜の抑制
  • 露点計算を前提に、断熱の連続性(熱橋カット)と換気計画をセットに。

  • 冷蔵・冷凍では扉回り・床端部・梁脚が要注意ポイント。点検口は極力減らす。

3. 空調方式の選び方:温度帯×運用で決める

3-1. 定温(15〜25℃)
  • マルチ型EHP/GHPまたはパッケージ空調でゾーン別制御。

  • **湿度45〜60%**狙いなら、加湿器/再熱除湿を併用。

  • 高密度保管×人作業が多いなら、天吊ダクト+大風量で均一化。LED照明で発熱低減。

3-2. 冷蔵(0〜10℃)
  • 空冷チラー+ファンコイル、または小型冷凍機の複数台構成

  • 開閉頻度が高い庫は**循環風のショート回避(吹出/吸込の位置最適化)**が効く。

  • 医薬・食品では温度ロガーの常時監視と警報を設計段階から組み込み。

3-3. 冷凍(−18〜−25℃)
  • 二元冷媒(CO₂/NH₃等)や低温対応冷凍機を選択。安全・法規の両面から仕様を確定。

  • 霜対策にデフロスト運転(電熱/ホットガス)。開閉多発庫は空気カーテンと前室が投資対効果大。

どの帯域でも、**温度ムラは“レイアウト×吹出計画×棚背面の風路確保”**で決まる。設備だけに解はない。

4. “混在”が前提の時代:一棟で複数温度帯を回すコツ

  • ゾーニング:入口近くに定温→奥に冷蔵→さらに奥に冷凍のカスケード配置が定石。

  • 人とモノの動線分離:ピッキング/検品は定温側に寄せ、滞在時間の長い作業は温度の緩いゾーンへ。

  • 自動化との整合:シャトルラック/ASRSを導入する温度帯では階高・床荷重・配電を初期から確保。冷凍帯のロボットは潤滑・センサー結露に配慮。

5. コストと省エネ:初期×運用の二段で効かせる

5-1. 初期費用の考え方(目安)
  • 定温:一般倉庫+断熱・気密化・空調強化で増分。

  • 冷蔵:断熱厚・扉・冷却機の分だけ上振れ。

  • 冷凍:断熱/防霜/冷凍機/安全対策で最も高コスト
    (※仕様・規模で大きく振れるため、概算は現地条件で積算が必要)

5-2. 運用費(電力)を下げる設計
  • ZEB Readyを視野に、BEMS+太陽光+蓄電池でピークカット。

  • 熱回収(冷凍機の廃熱で前室/事務室の暖房)やインバータ圧縮機で省エネ。

  • 高速シャッターの開閉制御在室センサーの連動で無駄な運転を止める。

6. 失敗事例に学ぶ“落とし穴”と回避策

  • 断熱だけ厚くして気密が甘い → 結露や温度ムラで電力増。連続断熱+気密層の連続性をディテールで担保。

  • 前室なしでドック直通 → 冷蔵庫が“半外気”。エアロックで段階的温度差に。

  • 床凍上対策を簡略化 → 冷凍床のスラブ破損・段差が発生。ヒーターor換気層を設計通りに。

  • 温度帯と作業を分けずに混在 → 作業者の安全と生産性が低下。滞在作業は温度の緩い側へ

  • 設備だけ更新 → 風路・棚・開口が旧態依然。建築・設備一体の改修で効果最大化。

7. 選定チャート:あなたの案件はどの温度帯?

  1. 保管品目は?
     生鮮/乳製品 → 冷蔵、冷凍食品/畜産 → 冷凍、化粧品/医薬部外品/精密 → 定温

  2. 開封・検品・撮影など作業は?
     多いなら作業室は定温で、商品は短時間だけ冷蔵/冷凍へ移送

  3. 開閉頻度は?
     高いなら前室+高速扉+エアカーテンを必須に

  4. 将来の自動化は?
     予定ありなら階高・床荷重・配電余裕を先に確保

  5. 電力・脱炭素の方針は?
     ZEB Ready/BEMSを前提にして補助金適用を検討

温度帯の“正解”は断熱×空調×動線の交点にある

温度帯の選定は、単なる設定温度の話ではありません。
**断熱(厚み・気密・防露)×空調(方式・湿度・制御)×動線(前室・開口・作業配置)**の交点で、品質・電力・安全が決まります。
一棟で複数温度帯を扱うなら、ゾーニングの順序と前室設計が成否を分けます。
初期から「建築×設備×運用(温度ログ/アラート)」を一体で設計し、将来の自動化・省エネまで見据えた計画にしましょう。

📩 温度帯の選定や断熱・空調仕様の比較、概算コストの整理が必要でしたらお気軽にご相談ください。 要件整理から基本設計、申請・省エネ計画まで支援します。

まとめ

倉庫建設のプロセスでは、各段階での効率的なコスト管理と品質確保が鍵となります。弊社のコンストラクション・マネジメント方式を通じ、コスト削減と高品質な倉庫建設を提供することを目指しています。倉庫建設に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。