倉庫建設で造成費が高くなるのはなぜ?盛土・切土・擁壁・地盤対策の確認ポイント
物流倉庫の用地を選ぶ際、土地価格、面積、高速道路へのアクセス、用途地域などを重視する一方で、「造成工事にどの程度の費用がかかるか」まで土地取得前に確認できていないケースがあります。
一見すると平坦に見える土地でも、前面道路との高低差、敷地内の起伏、既存の盛土、軟弱地盤、雨水排水などの条件によっては、大量の盛土・切土、擁壁、地盤改良などが必要になることがあります。土地価格が安くても、造成費を加えると総事業費が高くなる可能性があるため注意が必要です。
特に物流倉庫では、建物だけを水平にできればよいわけではありません。トラックヤード、バース、車路、駐車場まで広い範囲で適切な高さを確保し、大型車両が安全に走行できる勾配と雨水排水を成立させる必要があります。
また、現在は「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」により、土地の用途にかかわらず、規制区域内で一定規模以上の盛土・切土等を行う場合には許可等が必要となることがあります。同法は2023年5月26日に施行され、宅地だけでなく農地・森林等も含め、危険な盛土等を包括的に規制する制度となっています。
本記事では、物流倉庫建設における盛土・切土の考え方、造成工事、擁壁、地盤、排水、コストについて、土地取得を検討する発注者向けに解説します。

盛土・切土とは?
造成工事では、計画する建物やヤードの高さに合わせて土地の形状を整えます。その代表的な方法が「盛土」と「切土」です。
盛土とは、現在の地盤より土地を高くするために土を搬入・敷き均し・締固めることです。前面道路より土地が低い場合や、浸水対策として計画地盤高を上げたい場合、敷地内の低い部分を平坦化する場合などに行われます。
一方、切土とは、現在の地盤を掘削して土地を低くすることです。丘陵地や傾斜地を平坦化する場合、道路より敷地が高すぎる場合などに行われます。
実際の倉庫用地では、敷地全体を一律に盛る・削るのではなく、高い場所を切り、低い場所へ盛る「切盛土」によって造成するケースもあります。
ただし、単純に土を高い場所から低い場所へ移せば終わるわけではありません。発生土の性状、締固め、排水、法面、擁壁、地盤支持力などを確認しながら造成計画を立てる必要があります。
なぜ物流倉庫では造成計画が重要なのか
物流倉庫は建物面積だけでなく、トラックヤード、車路、待機スペース、駐車場など大規模な外構を必要とします。
建物の床だけを水平にしても、ヤードに急な勾配や段差が残れば、大型車両の走行や接車に支障が出ます。また、ヤードの高さを不適切に設定すると、雨水が建物側へ流れたり、バース前に冠水したりする可能性があります。
そのため造成計画では、
- 建物1階床の高さ
- トラックヤードの高さ
- バース高さ
- 前面道路の高さ
- 敷地内車路の勾配
- 隣接地との高低差
- 雨水排水方向
- 将来の地盤沈下
を同時に検討する必要があります。物流倉庫では「土地を平らにする工事」ではなく、物流動線が成立する高さをつくる工事として造成を考えることが重要です。
まず決めるべきなのは「計画地盤高」
盛土・切土量を考える前に整理したいのが、建物やヤードをどの高さに設定するかという「計画地盤高」です。
例えば、敷地が前面道路より低い場合、そのまま倉庫を建設すると、豪雨時に道路から雨水が流入するリスクが高くなることがあります。一方で敷地を大きく盛り上げると、盛土量が増えるだけでなく、道路からヤードへ入る車路の勾配が大きくなります。
また、隣接地より敷地を高くすると、敷地境界に擁壁が必要になったり、雨水が隣地へ流出しないよう排水計画を見直したりする必要があります。
したがって、
「浸水対策のため、できるだけ高くする」
という考え方だけでは不十分です。
計画地盤高は、
前面道路+浸水リスク+トラック動線+排水+造成量+擁壁
を組み合わせて決定する必要があります。
盛土が多くなると何が変わる?
盛土量が増えると、単純に搬入する土の費用だけが増えるわけではありません。
盛土を行う際には、使用する土の品質を確認し、所定の方法で敷き均し・締固めながら施工します。盛土が十分に締め固められていなければ、完成後に沈下する可能性があります。
物流倉庫では盛土上に、
- 倉庫建物
- 土間床
- トラックヤード
- 大型車路
- ラック
- 外構設備
などが配置されるため、沈下による影響が大きくなります。
特にトラックヤードが沈下すると、舗装のひび割れや段差だけでなく、排水勾配の変化、バース前の水たまり、ドックレベラーとの高さのずれにつながる可能性があります。
そのため、盛土量だけでなく盛土後の地盤性能まで含めて計画することが重要です。
切土なら沈下リスクがないとは限らない
切土部分は、盛土部分に比べて元の地盤が残るため、比較的安定した条件となる場合があります。しかし、「切土だから地盤対策は不要」と一律に判断することはできません。切土後に現れる地盤が軟弱であれば、地盤改良や杭基礎が必要になることがあります。
また、一つの大規模倉庫が
切土地盤+盛土地盤
の両方にまたがって建設される場合には注意が必要です。地盤条件が異なることで沈下量に差が生じると、不同沈下につながる可能性があります。
建物配置を検討するときは、現在の敷地形状だけでなく、造成後にどの部分が切土・盛土になるのかを地盤調査結果と重ねて確認することが重要です。
盛土・切土で擁壁が必要になる場合
敷地内外に高低差を設けると、土が崩れないよう「擁壁」が必要になる場合があります。擁壁とは、造成等によって生じる高低差部分で土砂の崩壊を防ぐために設ける構造物です。国土交通省も、擁壁について、造成時などに土砂が崩れることを防止するために設ける構造物と説明しています。
例えば、
- 隣地より敷地を高く盛る
- 前面道路より敷地を高くする
- 傾斜地を切土して平場をつくる
- 敷地境界近くに大きな高低差がある
といった場合に、擁壁を検討することがあります。ただし、擁壁が必要かどうか、必要な高さ・構造は、造成形状や地盤条件、法令・行政基準などによって異なります。
造成計画を進めてから擁壁が必要と判明すると、土地利用計画と建設費の両方へ大きな影響が出る可能性があるため、土地取得前から確認したい項目です。
既存擁壁がある土地は特に注意する
中古工場跡地や既造成地を倉庫用地として購入する場合、敷地境界に既存擁壁が設置されていることがあります。
このとき、
「すでに擁壁があるからそのまま使える」
とは限りません。
確認したいのは、
- 擁壁の設計図があるか
- 施工時期
- 許可・検査等の記録
- 擁壁の構造
- ひび割れ・傾き
- 排水設備の状態
- 現在の盛土高さ
- 新しい倉庫やヤードから作用する荷重との関係
です。
国土交通省も、老朽化や構造的不安定性によって機能が低下した擁壁では、地震時の倒壊等によって建物や隣地に影響を及ぼす可能性があるとして注意を促しています。
物流倉庫では大型車両が擁壁近くを走行・停車する計画となることもあります。既存擁壁を利用する場合は、その荷重条件も含めて構造的な確認が必要です。
擁壁は「壁」だけでなく排水が重要
擁壁を計画するときは、コンクリートの厚さや高さだけでなく、擁壁背面にたまる水への対応も重要です。
雨水や地下水が背面へたまると、擁壁へ水圧が作用します。そのため、造成に関する技術基準では擁壁と併せて排水施設を適切に設けることが重要な要素となっています。盛土規制法に関する国土交通省の技術資料でも、擁壁や排水施設等について災害防止のための技術基準が整理されています。
物流倉庫では敷地全体の舗装率が高いため、造成と雨水排水を別々に設計しないことが重要です。
特に、
- 擁壁上部からの雨水
- ヤード表面排水
- 盛土内の地下水
- 法面から流入する水
をどこへ排水するか確認します。
盛土規制法の対象になる可能性を確認する
現在、造成工事を計画するときに注意したいのが「盛土規制法」です。正式名称は「宅地造成及び特定盛土等規制法」で、2023年5月26日から施行されています。法律上の規制区域に指定された場所では、土地の用途にかかわらず、一定規模以上の盛土・切土等について許可が必要になる場合があります。物流倉庫や工場を建設するための造成であっても、用途だけを理由に対象外となるわけではありません。
また、規制区域には「宅地造成等工事規制区域」と「特定盛土等規制区域」があり、対象となる工事規模なども定められています。具体的な許可・届出の要否は、計画地の区域指定、盛土・切土の高さ、面積等によって判断する必要があります。
そのため発注者は、
「倉庫だから盛土規制法は関係ない」
と判断せず、計画地が規制区域に含まれるかを初期段階で確認することが重要です。
盛土・切土は建築確認とは別に手続きが必要になる場合がある
倉庫建設では建築確認を取得するため建築設計を進めますが、造成工事については建築確認とは別の法令・行政手続きが関係する場合があります。
盛土規制法だけでなく、都市計画法に基づく開発許可、自治体の条例、道路・排水施設に関する協議などが必要になるケースもあります。
したがって、
建築確認が通る=造成工事も自由にできる
という考え方は適切ではありません。土地取得前または基本計画の段階で、行政窓口や設計者と必要な手続きを整理しておくことが重要です。
造成費は「土量」で大きく変わる
造成工事費を左右する大きな要因の一つが土量です。例えば、広い物流倉庫用地を平均1m高くする場合、敷地面積が大きいほど必要な盛土量も大きくなります。
造成費には、単に土を購入する費用だけでなく、
- 盛土材
- 土砂運搬
- 敷き均し
- 締固め
- 切土・掘削
- 発生土処分
- 地盤改良
- 擁壁
- 排水施設
- 重機・仮設
などが関係します。特に都市部では土砂を長距離運搬する必要があったり、発生土の搬出先を確保したりする必要があり、土工事全体のコストへ影響します。
したがって土地購入前には、坪単価だけでなく、おおまかな造成土量を把握しておくことが有効です。
「切土した土を盛土に使えば安い」とは限らない
敷地内で大量の切土が発生する場合、
「削った土を低い場所へ移せば、土を買わなくて済む」
と考えることがあります。
確かに敷地内で土量のバランスを取ることは、運搬量や処分量を抑えるうえで重要です。国土交通省の土地区画整理事業に関する運用資料でも、造成計画の見直しにより、切盛土量や擁壁等を抑えることが整地費削減につながる考え方が示されています。ただし、切土によって発生した土が、そのまま盛土材として適切とは限りません。
土質や含水状態等によっては、改良や別材料への置換が必要になる場合があります。そのため「敷地内で土量が一致するか」だけでなく、その土を盛土として利用できるかまで確認する必要があります。
造成と地盤改良は別の工事
発注者が混同しやすいのが「造成」と「地盤改良」です。造成は主に土地の高さや形状を整える工事であり、地盤改良は建物や床を支持するために地盤性能を改善する工事です。
例えば、敷地へ2m盛土したとしても、その下に軟弱地盤があれば、盛土とは別に地盤改良や杭基礎が必要になることがあります。
逆に、地盤改良を行ったからといって、敷地の高さがトラックヤードや雨水排水に適した状態になるわけでもありません。
したがって、
造成計画
+地盤対策
+建物基礎
を分けて整理しながら、全体として最適な方法を検討します。
造成工事と杭基礎の関係
杭基礎を採用する場合も、造成計画と杭設計の順序に注意が必要です。例えば、造成前の地盤を基準としてボーリング調査を行い、その後に大規模な盛土をすると、完成後の地盤面から支持層までの距離は変わります。
また、盛土によって地盤へ新たな荷重が加わるため、その影響を考慮する必要があります。
基本計画では、
- 現況地盤高
- 計画地盤高
- 盛土厚
- 支持層
- 建物荷重
- 杭長
の関係を整理します。地盤調査、造成設計、構造設計を別々に進めず、相互の条件を共有することが重要です。
倉庫の土間床にも盛土地盤が影響する
建物を杭基礎で支持していても、倉庫の土間床が地盤上に設けられている場合は、盛土地盤の状態が床へ影響します。
盛土やその下の地盤が沈下すると、
- 床にひび割れが発生する
- ラック脚部に段差が生じる
- フォークリフト走行に影響する
- 自動倉庫の精度に影響する
可能性があります。
したがって、
「建物を杭で支持しているから、盛土の沈下は問題にならない」
とは限りません。建物基礎と土間床が何によって支持されているかを分けて確認する必要があります。
トラックヤードは建物との沈下差に注意する
物流倉庫では建物と外構の沈下差も重要です。例えば建物を杭基礎で支持し、トラックヤードは盛土地盤上に施工する場合、時間の経過とともにヤード側だけが沈下する可能性があります。
すると建物との境界で、
- 段差
- 逆勾配
- 水たまり
- バース高さのずれ
が生じる可能性があります。特にバース前では、トラック接車と排水の両方に影響するため注意が必要です。
前回の記事で解説したトラックヤード舗装についても、舗装材料だけでなく、その下の盛土・路床まで含めて計画する必要があります。
造成計画と雨水排水は同時に検討する
造成によって土地の高さを変えると、雨水が流れる方向も変わります。そのため、盛土・切土計画と雨水排水計画は切り離せません。例えば敷地中央を高くしすぎると、雨水が隣地や道路へ流れる可能性があります。一方、建物周辺を低くすると、シャッターやバースへ雨水が集まる可能性があります。
造成設計では、
- 敷地全体の高低差
- ヤード勾配
- 側溝
- 集水桝
- 雨水管
- 雨水貯留施設
- 放流先
を一体として確認します。特に広い物流倉庫では、数十mm程度の高さの設定が広範囲の排水方向へ影響することがあります。
土地が安くても造成費で逆転する可能性がある
倉庫用地を比較するとき、土地単価だけで判断するのは危険です。
例えば、
A土地
土地価格は比較的高い
地盤がほぼ平坦
前面道路との高低差が小さい
大規模造成が不要
B土地
土地価格は安い
敷地に大きな高低差がある
大量の盛土が必要
擁壁が必要
地盤改良も必要
という条件であれば、土地だけを見るとBが安くても、建物を建てられる状態までの総コストでは差が縮まったり、逆転したりする可能性があります。
したがって候補地は、
土地取得費
+造成費
+擁壁
+地盤改良
+基礎
+雨水・外構
まで含めて比較することが重要です。
既存工場・倉庫跡地では地中障害物にも注意する
既存建物を解体して新しい物流倉庫を建てる場合は、造成時に地中障害物が見つかる可能性があります。
例えば、
- 既存基礎
- 既存杭
- 地下ピット
- 地下タンク
- 埋設配管
- 過去の造成物
などです。
地中障害物の撤去には追加費用と工期が必要となる場合があります。また、既存杭を残置する場合には新しい杭・基礎と干渉しないかを確認する必要があります。中古用地では地上部分だけでなく、過去の建物図面、解体履歴、地中構造物についても土地取得前に可能な範囲で調査することが重要です。
発注者が土地取得前に確認したい造成チェックポイント
物流倉庫用地を検討するときは、次の項目を確認しておくと造成費の想定外を減らしやすくなります。
1.敷地と前面道路の高低差
道路より大幅に低い・高い土地では、盛土・切土や進入スロープが必要になる可能性があります。
2.敷地全体の高低差
土地の一地点だけでなく、測量図や現況測量によって敷地全体の高さを確認します。
3.必要な計画地盤高
浸水対策、排水、道路、バースを含めて設定します。
4.盛土・切土量
概算でも土量を算出し、造成費を把握します。
5.擁壁の有無
新設が必要か、既存擁壁を利用できるかを確認します。
6.地盤条件
造成とは別に杭・地盤改良が必要になる可能性を確認します。
7.雨水排水
造成後に雨水がどこへ流れるか確認します。
8.規制区域・行政手続き
盛土規制法や開発許可など、必要な手続きを確認します。盛土規制法では規制区域内の一定規模以上の工事について許可が必要となる場合があります。
9.発生土・搬入土
敷地内で土量を調整できるか、搬出・搬入が必要かを確認します。
10.地中障害物
既存建物がある土地では、既存杭・基礎等を確認します。
造成費は設計後ではなく土地取得前から概算する
造成工事は建物本体とは別に見積もられることが多く、土地取得時には正確な金額が分からない場合があります。
しかし、
「土地を買ってから造成費を調べる」
という進め方はリスクがあります。
土地取得後に、
- 想定以上の盛土
- 大規模な擁壁
- 軟弱地盤
- 雨水貯留施設
- 地中障害物
などが判明しても、土地自体を簡単に変更することはできません。土地選定段階で精密な実施設計を行う必要はありませんが、測量資料、地盤情報、行政条件等から造成内容を概算し、事業予算へ一定のリスクを見込んでおくことが重要です。
倉庫建設における盛土・切土は、単に土地を平らにするための工事ではありません。建物床、トラックヤード、バース、前面道路、雨水排水、隣地との高低差を調整し、物流施設として使用できる高さをつくるための重要な造成工事です。
盛土が増えれば土砂搬入・締固め等の費用が増え、敷地に高低差が生じれば擁壁が必要になる可能性があります。また、造成後の盛土地盤が沈下すると、倉庫床、トラックヤード、排水勾配へ影響することもあります。
さらに、現在は盛土規制法により、規制区域内で一定規模以上の盛土・切土等を行う場合、土地用途にかかわらず許可が必要になる場合があります。
そのため発注者は土地価格だけで候補地を比較せず、
土地取得費+造成費+擁壁+地盤対策+基礎+外構・排水
まで含めた総事業費で判断することが重要です。特に大規模な物流倉庫では、土地取得後に造成条件を確認するのではなく、土地選定の段階から計画地盤高、地盤、盛土・切土、擁壁、雨水排水を概略検討しておくことが、想定外のコスト増や設計変更を防ぐポイントになります。
【重要事項】
本記事は、物流倉庫建設における盛土・切土、造成工事、擁壁、地盤等について一般的な考え方を整理したものです。実際に必要となる盛土・切土量、擁壁、法面、地盤対策、排水設備、行政手続き等は、敷地形状、高低差、地盤条件、建物規模、計画地盤高、周辺環境、規制区域、自治体の基準等によって異なります。
盛土規制法その他の法令に基づく許可・届出の要否については、最新の区域指定や計画内容を確認し、建築士、土木設計者、構造設計者、地盤の専門技術者、施工会社および所管行政機関等へご相談ください。
倉庫建設のプロセスでは、各段階での効率的なコスト管理と品質確保が鍵となります。弊社のコンストラクション・マネジメント方式を通じ、コスト削減と高品質な倉庫建設を提供することを目指しています。倉庫建設に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


