自動倉庫を一括発注するときに発注者が決めるべきこと|EPC契約の要求性能・保証・検収
自動倉庫を導入する際、建築、ラック、スタッカークレーン、コンベヤ、電気設備、制御、WMS・WCS連携など、多くの設計・調達・施工業務が発生します。これらを複数の会社へ個別発注する方法だけでなく、設計・機器調達・施工を一括して発注する「EPC」という考え方を採用するプロジェクトもあります。
EPCは一般に、Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設・施工)を一括して請け負う方式を指します。工場やプラントで使われることの多い用語ですが、自動倉庫や大規模マテハン設備を含む物流施設でも、建築と設備を一体として計画し、性能まで含めて発注する場合にはEPC的な契約方式を検討する意味があります。
ただし、ここで注意したいのは、「EPCで一括発注すれば、発注者は細かな条件を決めなくてもよい」というわけではないことです。
むしろ自動倉庫では、契約前に発注者が保管能力、入出庫能力、稼働時間、システム連携、試運転方法、検収条件、性能保証などを具体的に定義していなければ、完成後に「設備は動くが、想定していた物流能力が出ない」という問題につながる可能性があります。
本記事では、自動倉庫をEPC方式で発注する際に、発注者が契約前に整理しておきたい要求性能、性能保証、試運転、検収、変更管理などについて解説します。

自動倉庫におけるEPC契約とは?
EPC契約では、設計、機器・資材の調達、施工を一括して請負者へ発注します。自動倉庫のプロジェクトで考えると、対象範囲には例えば次のようなものがあります。
- 自動倉庫設備の設計
- ラック・スタッカークレーン等の調達
- コンベヤ・搬送設備の調達
- 制御盤・センサー等の調達
- 電気・通信工事
- 設備据付
- 制御ソフトウェア
- WMS・WCS等とのシステム連携
- 単体試運転
- 連動試運転
- 性能確認
- 引渡し
ただし、「EPC」と呼ばれていても、実際の契約範囲はプロジェクトごとに異なります。建築工事まで一括する場合もあれば、建物はゼネコンが施工し、自動倉庫設備だけを別のEPCパッケージとして発注する場合もあります。
また、日本の物流施設では「設計施工一括」「デザインビルド」「マテハン一括発注」など別の名称が使用されることもあります。
そのため、契約名称だけを見るのではなく、
何を設計し、何を調達し、どこまで施工し、どの性能まで保証する契約なのか
を確認することが重要です。
EPCと設計施工一括は何が違う?
設計と施工を一社または一つのグループへ一括発注する方式として、デザインビルド(DB)があります。
DBは一般に、
Design(設計)+Build(施工)
を一括する考え方です。
一方EPCでは、
Engineering(設計)+Procurement(調達)+Construction(施工)
というように「調達」が明確に含まれる点が特徴です。自動倉庫では、建物そのものよりもラック、スタッカークレーン、コンベヤ、制御盤、センサー、PLCなどの設備調達がプロジェクト性能へ大きく影響します。
そのため、自動倉庫のように機器調達の比重が大きい施設では、EPCという考え方との相性が比較的高いと言えます。
ただし、実際の契約内容は名称よりも契約書・要求仕様書・見積条件によって決まります。「EPC」という名称だけで性能保証や試運転まで自動的に含まれるわけではありません。
一括発注の最大のメリットは「窓口を一本化できること」
自動倉庫を個別発注すると、建築会社、電気工事会社、マテハンメーカー、システム会社など複数の会社が関係します。
問題が発生した際に、
「建築側の問題です」
「設備側の条件です」
「システム側の問題です」
と責任の切り分けに時間がかかる場合があります。EPC方式では、対象範囲を一括して契約することで、発注者から見た契約窓口を一本化しやすくなります。また、設計と調達を同じ主体が管理するため、設備仕様と施工条件の整合を取りやすいこともメリットです。
例えば、
- ラック寸法と建物柱スパン
- 設備荷重と床・基礎
- 必要電源容量
- 制御盤配置
- ケーブルルート
- 通信設備
- 防火・消防設備
- メンテナンススペース
などを早い段階から一体的に調整できます。
EPCでも発注者が要求性能を決めなければならない
一括発注では請負者側が設計を行うため、発注者側の設計負担を減らせる可能性があります。しかし、「設計を任せること」と「要求条件まで任せること」は別です。
例えば発注者が、
「1万パレットを保管できる自動倉庫をつくってほしい」
とだけ伝えた場合、保管能力は満たしていても、実際の入出庫能力が不足する可能性があります。自動倉庫は、単に「何個保管できるか」ではなく、
どの荷物を、何個保管し、何時間で何個入出庫し、どの程度の停止を許容するのか
まで決める必要があります。EPC契約では発注者側の要求を「要求仕様書」などに整理し、請負者がその条件を満たすシステムを設計する形にすることが重要です。
保管能力は「パレット数」だけで決めない
自動倉庫の基本要求として最初に挙げられるのが保管能力です。
例えば、
10,000パレット収納
という条件です。しかし、これだけでは設備仕様を確定できません。
発注者は少なくとも、
- パレット寸法
- 最大荷重
- 荷姿
- 商品高さ
- 最大収納高さ
- 商品種類
- SKU数
- 同一SKUの保管数量
- 特殊荷姿の有無
などを整理する必要があります。荷物の寸法や重量が後から変更されると、ラック寸法、クレーン能力、コンベヤ、センサーなどの再設計につながる可能性があります。特に将来の商品変更が予想される場合は、「現在の荷姿」だけでなく、将来どこまで対応できる設備にするかを決めておく必要があります。
最も重要なのは「入出庫処理能力」
自動倉庫のEPC契約で特に重要なのが、入出庫処理能力の定義です。保管能力が十分でも、必要な時間内に商品を出庫できなければ物流施設として機能しません。
例えば、
1時間あたり200パレット出庫
と要求する場合でも、条件を明確にする必要があります。
- 入庫と出庫を同時に行うのか
- 出庫だけの場合なのか
- 何台のスタッカークレーンを使用するのか
- 商品がどのロケーションにある想定か
- 搬送先は一か所か複数か
- ピーク時能力なのか平均能力なのか
- 何時間継続できる必要があるのか
これらによって設備構成は変わります。そのため要求仕様書では、単純な「最大処理能力」だけでなく、実際の物流運用を想定したシナリオ別の能力を設定することが重要です。
ピーク時と通常時を分けて考える
物流倉庫では、1日の処理量が一定とは限りません。例えば午前中に入荷が集中し、午後から夕方に出荷が集中する施設もあります。EC物流ではキャンペーンや繁忙期に処理量が大きく増える場合があります。
そのため、
- 通常日の処理能力
- ピーク時間帯の処理能力
- 繁忙日の処理能力
- 将来の物量増加
を分けて整理します。平均物量だけで設備能力を決めると、ピーク時に自動倉庫がボトルネックになる可能性があります。一方、最大ピークだけを基準に過大な設備を導入すると、初期投資が増えます。EPC契約では、どの処理条件を「保証性能」とするのかを契約前に明確にすることが重要です。
「稼働率」と「可用性」も性能条件になる
自動倉庫は機械設備であるため、故障やメンテナンスによる停止を完全になくすことはできません。そのため重要な物流拠点では、単純な処理能力だけでなく、
- 設備の稼働可能時間
- 計画停止
- 故障停止
- 復旧時間
- 冗長化
なども性能条件として検討します。例えばスタッカークレーン1台が停止した際に、その通路すべての荷物を出庫できなくなるシステムと、別系統で一部運用を継続できるシステムでは、BCP上の性能が異なります。
発注者は、
「最大能力」だけでなく「故障したときにどこまで運用できるか」
を確認することが重要です。
WMS・WCSの責任範囲を契約前に整理する
自動倉庫は機械設備だけで動くものではありません。
一般的には、
上位基幹システム
↓
WMS
↓
WCS等
↓
PLC・設備制御
↓
マテハン設備
というように複数のシステムが連携します。実際のシステム構成や各システムの役割は施設によって異なりますが、重要なのはどこまでEPC契約に含めるのかを明確にすることです。
例えば、
- WMSは発注者支給
- WCSはEPC請負者
- PLCはマテハンメーカー
という構成の場合、それぞれのシステム間の通信仕様を決める必要があります。
契約前に、
- 通信方式
- データ項目
- インターフェース仕様
- エラー処理
- 再送処理
- システム停止時の運用
- テスト方法
を整理しておかなければ、設備据付後にシステム連携で時間を要する可能性があります。
EPC契約でも発注者側の「支給条件」がある
EPCで一括発注する場合でも、すべてを請負者が準備するとは限りません。
発注者側で用意するものとして、
- 商品マスタ
- SKU情報
- 荷姿データ
- 入出庫データ
- WMS仕様
- 上位システム
- 通信環境
- テスト用商品
- 運用担当者
- 操作教育対象者
などが必要になる場合があります。発注者側の情報提供が遅れると、請負者側の設計やシステム開発も遅れます。そのため契約時には、請負者だけでなく、
「発注者が、いつまでに、何を提供するか」
もスケジュールに明記することが重要です。
性能保証は「設備が動くこと」だけでは不十分
EPC契約の重要なポイントが性能保証です。単純に設備が起動し、荷物を一つ搬送できれば完成というわけではありません。自動倉庫では、例えば次のような性能について保証条件を検討します。
- 保管能力
- 入庫処理能力
- 出庫処理能力
- 同時入出庫能力
- 連続運転性能
- 搬送精度
- システム応答
- 設備可用性
- 安全装置の作動
- WMS・WCSとの連動
- 異常時の復旧
ただし、すべてを同じ方法で数値保証できるわけではありません。重要なのは、保証対象となる性能について、
何を、どの条件で、どの方法で測定し、どの数値なら合格とするか
を契約前に決めることです。
FATとSATをどう位置付ける?
自動倉庫では、設備が現場へ搬入される前後で複数の試験を行うことがあります。代表的な考え方として、FATとSATがあります。FAT(Factory Acceptance Test)は、設備や制御盤、ソフトウェアなどについて、メーカー工場等で実施する受入試験です。SAT(Site Acceptance Test)は、現地据付後に実際の設備環境で実施する受入試験です。ただし、FAT・SATの名称や範囲は契約によって異なります。
発注者は、
- 何をFATで確認するか
- 何をSATまで確認できないか
- 誰が立ち会うか
- 試験記録をどう残すか
- 不合格の場合どうするか
を決めます。特に海外製設備を使用する場合は、現地搬入後に重大な問題が判明すると修正に時間がかかるため、FATの段階でできるだけ多く確認しておくことが重要です。
「実荷物」で性能試験する条件を決める
自動倉庫の性能試験では、設備メーカーが準備したテスト用パレットだけではなく、実際に倉庫で扱う商品を使用することが重要な場合があります。
実際の商品では、
- パレットのばらつき
- 荷姿の変形
- フィルムの張り出し
- 商品高さのばらつき
- 重心の偏り
などが発生するためです。
契約前には、
- テスト商品の種類
- 数量
- 最大重量
- 最小重量
- 最大高さ
- 特殊荷姿
- 連続運転時間
などを決めておくと、検収時の解釈違いを防ぎやすくなります。
性能試験と検収は同じではない
試運転が完了しても、直ちに検収となるとは限りません。
一般的には、
据付完了
↓
単体試運転
↓
連動試運転
↓
性能試験
↓
不具合是正
↓
検収
↓
引渡し
という流れを整理します。
発注者として重要なのは、
「どの状態になれば検収するのか」
を契約書で明確にすることです。
例えば、
- 性能試験がすべて合格している
- 重大な不具合が残っていない
- 操作教育が完了している
- 完成図書が提出されている
- 予備品が納入されている
- 保守マニュアルが提出されている
などを検収条件として設定できます。
軽微な不具合を残したまま引き渡す場合
大型設備では、引渡し時点で細かな調整項目が残ることもあります。その場合は、残項目を曖昧なままにせず、「パンチリスト」などとして整理します。
例えば、
- 不具合内容
- 対象設備
- 暫定対応
- 恒久対応
- 完了期限
- 確認者
を明確にします。重大な性能不足と、運用に影響しない軽微な調整を区別し、どの状態なら引渡し可能かを事前に決めておくことが重要です。
仕様変更のルールを契約前に決める
自動倉庫では計画途中で、
「保管量を増やしたい」
「搬送先を追加したい」
「WMS仕様を変更したい」
といった要求が発生することがあります。しかし、EPC契約締結後の要求追加は、
- 設計変更
- 機器変更
- ソフトウェア変更
- 納期延長
- 追加費用
につながります。そのため契約では、変更要求について、
- 発注者から変更要求を提出
- 請負者が費用・工程への影響を提示
- 発注者が承認
- 契約変更後に実施
という変更管理手続きを決めておくことが重要です。口頭指示だけで仕様を追加すると、後から追加費用をめぐるトラブルにつながりやすくなります。
長納期機器の調達リスクを確認する
自動倉庫では、スタッカークレーン、制御機器、モーター、センサー、PLC、特殊部品など、調達に時間を要する機器が含まれることがあります。EPC契約では調達を請負者が管理しますが、発注者側でも主要機器の調達スケジュールを把握しておくことが重要です。
確認したいのは、
- 主要機器のメーカー
- 発注時期
- 製作期間
- 海外調達の有無
- 代替品の可否
- 仕様確定期限
- 現場搬入時期
です。
特に設計承認が遅れると、その後の機器発注も遅れるため、発注者側の承認工程もプロジェクトスケジュールへ含めます。
予備品・消耗品を契約に含める
設備引渡し後に故障が発生した際、交換部品がなければ長期間停止する可能性があります。そのためEPC契約では、初期予備品についても確認します。
例えば、
- センサー
- モーター関連部品
- ベルト
- ヒューズ
- 接触器
- 制御機器
- 消耗部品
などです。どの部品を何個納入するか、保管方法、推奨交換周期まで整理しておくと、運用開始後の復旧性を高めることができます。
保証期間と保守契約を分けて考える
「設備保証」と「保守契約」は同じではありません。保証期間中でも、すべての故障が無償修理になるとは限らず、消耗品や誤操作による故障などが対象外になる場合があります。
契約前に、
- 保証開始日
- 保証期間
- 保証対象
- 保証対象外
- 出張費
- 部品費
- ソフトウェア修正
- 緊急対応
- 対応時間
などを確認します。また、24時間稼働する物流センターでは、
故障連絡後、何時間以内に対応できるか
という保守体制も重要です。設備価格だけでなく、稼働後10年、20年を見据えてメーカーの保守体制や部品供給について確認することが重要です。
EPCでも発注者側にプロジェクト管理が必要
EPC方式では契約窓口を一本化できますが、発注者側のプロジェクト管理が不要になるわけではありません。むしろ請負者へ大きな裁量を与える契約ほど、
発注者が何を要求し、どの段階で承認し、どの性能で受け取るか
を管理する必要があります。
発注者側では、
- 要求仕様
- 設計承認
- 変更管理
- 工程
- コスト
- 性能試験
- 検収
- 保証
を一貫して管理する体制が重要です。特に自動倉庫では、物流部門、情報システム部門、施設管理部門など複数部門が関係します。設備完成直前になって各部門の要求が追加されないよう、基本計画段階から社内条件を整理しておく必要があります。
EPC契約前に確認したい発注者チェックリスト
要求性能
- 保管能力を明確にしたか
- 荷姿・寸法・重量を整理したか
- 通常時とピーク時の処理能力を設定したか
- 将来物量をどこまで見込むか決めたか
- 必要な稼働時間・可用性を整理したか
システム
- WMS・WCS等の構成を整理したか
- インターフェース仕様を決めたか
- 発注者支給システムを明確にしたか
- 障害時の運用方法を決めたか
試験・検収
- FATの範囲を決めたか
- SATの範囲を決めたか
- 実荷物で性能試験を行うか
- 合格基準を数値で定義したか
- 検収条件を明確にしたか
- 残工事の管理方法を決めたか
契約・調達
- 長納期機器を把握したか
- 設計承認期限を決めたか
- 仕様変更手続きを決めたか
- 予備品を契約に含めたか
- 保証条件を確認したか
- 保守体制を確認したか
自動倉庫のEPC契約は、設計、機器調達、施工を一括して発注することで、契約窓口を一本化し、建築・設備・制御を一体として計画しやすくする方法です。
しかし、一括発注だからといって、発注者が仕様を決めなくてもよいわけではありません。
むしろ重要なのは、
保管能力
+入出庫処理能力
+稼働率・可用性
+システム連携
+性能試験
+検収
+保証・保守
を契約前に具体化することです。特に「1時間あたり○パレット」といった性能条件は、どのような運転条件で測定するのかまで決めなければ、発注者と請負者で解釈が異なる可能性があります。
また、FAT・SAT・実荷物を使用した性能試験、検収条件、仕様変更手続き、予備品、保守体制まで契約時に整理しておくことで、設備完成後のトラブルを減らしやすくなります。
自動倉庫のEPC契約で発注者が決めるべきなのは、「どのメーカーの設備をどう設計するか」だけではありません。
「どのような物流性能を、どの条件で、いつまでに実現し、何を確認できれば完成とするのか」
を明確にすることが最も重要です。EPCという一括発注方式を活かすためには、契約前の要求性能・性能保証・検収条件を整理し、設計から試運転・引渡しまで一貫して管理することが、自動倉庫導入を成功させるポイントとなります。
【重要事項】
本記事は、自動倉庫におけるEPC契約、要求性能、性能保証、試運転、検収等について一般的な考え方を整理したものです。実際のEPC契約範囲、保証条件、責任範囲、試験方法、検収条件等は、契約方式、設備仕様、発注者要求、マテハンシステム、システム構成等によって異なります。また、「EPC」「設計施工一括」「デザインビルド」等の名称のみで契約内容が一律に決まるものではありません。
具体的な契約・発注にあたっては、契約書、要求仕様書、見積条件書等を確認し、建築・物流設備・情報システム・契約実務の専門家等と個別に検討してください。
倉庫建設のプロセスでは、各段階での効率的なコスト管理と品質確保が鍵となります。弊社のコンストラクション・マネジメント方式を通じ、コスト削減と高品質な倉庫建設を提供することを目指しています。倉庫建設に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


